突然 目の前に現れたのは
夢にまでみた 傘雲
やっと 会えた
しかし それは 悪天候のサイン
そして 僕は今から
あの 傘雲に突入する
山頂はまだ冬
前回 1合目~6合目までを
登った 富士山
当然 次は 山頂を目指すわけです
しかし 前日の調査では
上はまだ 冬山
僕は装備に アイゼンを加えた
富士山の山開きは
7月1日
しかし 毎年のように
山開きがされた後でも
山頂までのルートは閉ざされ
雪解けを待つのだ
だから シーズンは たったの 2か月
そして 9月には短い秋を通り越し
また 冬山へと その姿を変える
テレビなどで見かけるのが
富士山渋滞
夏場の短いシーズンに
この山は 汚されてしまう
現にこの日も あちこちで
ゴミを見かけた
前回 僕が訪れた日に
実は 遭難事故が起きていた
しかも 2件
死亡事故には至らなかったが
数十メートルの滑落
そして動けなくなり
ヘリでの救出となったようだ
しかし 富士山の風は独特で
世界でも 類を見ないほど
突然の天候の変化に突風
なかなかヘリが近づけず
救出隊員も命がけだそうだ
7合目辺りからの 山中湖
いつもは あの湖畔で
富士山を撮影しているのだ
それが今は 見下ろす位置
すべてが 小さく見える
ここからは もう冬山
吐く息は 白く
気温は 一桁となる
下界とは 30℃以上の差だ
急に 叩き付けるような雨
それに加え 突風だ
まさに 台風の中にいるようだ
見下ろす雲も 雲海に変わり
いよいよ 山の女神が
洗礼を与え始めた
山頂まで あと 80分
『さぁ 登って来い』と
時折見せる その頂が
僕を
誘っているかのように見えた
今までの 登山で
山頂に 辿り着けるのかと
不安に思ったことはなかった
タイムススケジュール通りに動けば
それで 解決出来た
しかし この山は違う
今 思うことは
『生きて 帰れるのだろうか』
『進むべきか 止めるべきか』
山頂はまだ早過ぎた
その時 僕の視界を横切る物があった
サッカーボールほどの
雪の固まり
突風にあおられて 落ちて来たのだろう
それが岩に激突し
粉々に 砕け散る
これが 落石だったらと
さらに 不安が募る
僕は 足を止め 山頂を見上げた
『まだ そこへ立つことを 許してはくれないのか』
その後 少し先を登っていた登山者が
下山してきた
『この先は 止めた方がいい 視界もほとんどない』
登頂失敗
僕の心に 富士への想いが
さらに大きく 刻まれてしまった
五合目 (富士吉田口) 7:00
六合目 7:30
七合目 9:00
八合目 11:00
五合目 (下山完了) 13:30